理由なんてきっと

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桐山照史くんに転がされるblog

紫陽花の記憶

ジャニーズWEST濵田崇裕さん💜

『恋の病と野郎組』*1というBS日テレ連ドラへの出演決定、おめでとうございます!!!!!!!

7月20日(土)23時半初回スタート…つまり今日からいよいよ始まっちゃうんですね。

ドラマの中で濵田さんが演じる役はなんと先生…既婚者…先生…先生……ということで、大好きな濵田担さんと一緒に楽しい妄想してたらさらに大量の妄想というかストーリーが私の頭の中で膨張してきたので、これから思い切ってアウトプットしていくことにしました!*2

好きなときに好きな分だけ気まぐれに更新したいと思うので、もし読んでいただけるのであればどうぞ暇つぶし程度にお付き合いください。


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《主な登場人物》

■瀧川このみ(主人公)…高校3年生。この高校唯一の写真部員であり、部長も務める。(ただし、いつも持ち歩いている一眼レフで写真を撮った経験は一切なし)

■石野ゆめ…このみの親友。このみとは同じクラス。吹奏楽部の副部長で、担当楽器はパーカッション。

■濵田先生…30歳。このみ・ゆめの担任教師。担当科目は化学で、写真部の顧問。いつも気だるげ。

■神山先生…25歳。担当科目は世界史で、吹奏楽部の顧問教師。無類の甘いもの好き。

 

 

ガラガラガラッ!*3

ひとりぼっちの静かな部室にドアの開閉音が響き渡る。

何も警戒することなく少しゆっくりと顔を上げれば、ドア音の演奏者がさらに足音を軽やかに奏でながら、やや興奮気味に近づいてくるのが見えた。

「このみ!ちょっと聞いて!今日も部活だったんだけどね、なんと神山先生が〜…」

目の前で急に始まる、始まったら止まらない親友ゆめの恋バナ。私は特に驚くことなく、相槌を打ちながら写真の現像作業を続ける。ただ、ほおを紅潮させながら楽しそうに話すゆめの姿はいつも愛らしくて、今日も私は何度か手を止めてしまいそうになっていた。そしてそんなことをしているうちに、今度はゆめが私に話のターンを渡してきた。

「そういえば、今日の濵田先生はどうだったの?何かあったならもれなく教えてよね!」

とはいえこれも私の恋バナではなくて、やっぱりゆめの恋バナ。ゆめは神山先生だけでなく、濵田先生のことも大好きな恋多き乙女なのだ。

「話せるようなこと何かあったかな…あ、そういえば。さっき先生が部室出る前、『今日の紫陽花は綺麗やなあ』って言ってたかも」

「紫陽花?!何それ、すごくアンニュイじゃない?うわあ…生で聞きたかったな!このみ羨ましいぞ!」

ゆめは多めに瞬きをしながら私を見つめた。

「そうかなあ…?多分、私にそう言って写真を撮らせようとしたんじゃない?まあ、残念ながら私はその期待には応えないんだけどね」

私が少し冷めたような口調でそう答えると、ゆめは若干不服そうな表情になった。

「もう!せっかく写真部にいるんだから、このみだって自分で撮ってみればいいのに。私もこのみの写真見てみたいし、濵田先生もきっとそうなんじゃないかな?」

「ありがとう、そう言ってくれて」

ゆめのまっすぐな言葉を、私はありきたりな感謝で軽く受け流した。私が写真を撮らない理由、それを目の前にいるゆめは知っている。それから、私が今こうして淡々と現像している写真が、一体誰によって撮影されたものであるかということも。

 

私には姉がいる。でももしかしたら、もうこの世にはいないかもしれない。姉は、私が中学2年生のときに家出した。そしてそれっきり行方がわからず、今でも姉は家族の誰とも連絡を取れていない状態。姉がいなくなってすぐ、私は姉の部屋にあったデジタル一眼レフカメラの中に姉の居場所の手がかりを探した。その一眼レフは、高校の写真部に所属していた姉が毎日肌見離さず持ち歩いていたものだった。

「すごい…」

初めて見る姉の写真、それはどれも不思議な空気を纏っていて、純粋で、とても綺麗だった。姉は、誰もが見覚えのある物や風景を、まるで魔法をかけたように誰も見たことのない姿へと変えていた。そしてその魔法は、一瞬にして私の心にも変化をもたらしたのだった。私はすっかり姉の写真の世界に惹かれてしまい、今度は画像データではなくきちんと現像された写真によって、姉の目に映った世界を見つめてみたくなった。だから私は、姉と同じ高校、同じ写真部で、その思いを実現することにしたのだ。

それなのに、高校に入学した私は程なく、写真部が既に廃部となっていることを知った。一体何のために私はこの高校に来たんだろう、そんな絶望が私の心を覆った。でも、私のそんな姿を心配した当時の担任が、部員1人でも活動できるように学校側へ懸命に掛け合ってくれた。そしてそのおかげで、私は念願の写真部員、しかも部長(部長なんて必要ない気がするけど、部活動として登録するために無くてはならない肩書きらしい)としての高校生活を、晴れてスタートしたのだった。

 

神山先生からさっき教わったという指揮のリズムを私に披露する笑顔のゆめ。その背景が、気づけば夕空から夜空に変わっていた。今日は天気がいいみたいで、既に幾つかの星も瞬き始めている。

「ゆめ、続きは帰りながら聞くね」

「わ!ほんとだ、もうこんな時間。やっぱりこのみと話してると、まるでタイムスリップしたみたいに一瞬で時が過ぎちゃう!」

目を輝かせながらそんな可愛らしいことを言うゆめに、私はこっそりと鼓動を早めた。

「じゃあ、私は濵田先生に終わりの報告してくるね」

「了解だよ。私は校門で待ってるから!」

「うん、私も終わったらすぐ行く」

 

ゆめとは一旦教室の外で分かれ、私はそのまま化学準備室へと向かった。校舎2階の端にある見慣れたドアの前に着くと、いつもどおりノックをして無言で反応を待つ。

「おるで」

「失礼します」

少し低めで無愛想な声に私は挨拶の言葉を返し、重いドアを開けて部屋の中へと足を踏み入れた。途端に、薬品の匂いとは違う苦い香りが鼻をかすめる。顔を歪めながら部屋の奥に進み、そこで窓際の椅子に座っている痩身の男性を見つけた私は、彼が着ている白衣の胸ポケットが変に膨らんでいるのを睨みつけた。

「濵田先生、またここで煙草吸ったんですか?」

「しゃあないねん。敷地内全面禁煙やねんから、どこで吸っても一緒やろ?」

「もう。見つかったら怒られますよ」

「そうそう見つからへんし、お前は誰かにチクる人やない。せやから大丈夫や」

流暢に理屈を並べて、濵田先生が私を丸め込もうとする。その姿は一切反省の様子もなく、むしろ私が勝手に怒っているのを笑顔で宥めているかのようだった。

「とりあえず、今日の部活も終わりました。ありがとうございました」

私は彼の飄々とした態度に苛立ちを隠せず、今日の部活の終了を早口で愛想無く伝えた。でもそんな私を前にして、濵田先生は面白いものでも見たかのように目を細くしてさらに笑っている。

「まあまあ、そんなカリカリせんでも…あ、俺のせいで怒ってんのか。ごめんなあ。そういえば、今日は写真撮ったんか?」

「いいえ、撮ってません」

「そうか…了解した。ほんなら、もう暗いから気をつけて帰りや」

「はい、お疲れ様です。失礼しました」

私にとって最も面倒な時間、濵田先生との会話が今日もやっと終わった。私は安堵しながら早々と彼に背を向け、部屋の出入り口に近づいていく。私がドアノブに手を掛けようとすると、不意に濵田先生が私の後ろ姿へ向かって声をかけてきた。

「瀧川。好きな子、待たせてしまって申し訳なかったなあ。お疲れさん」

「え…?」

思いがけず耳に届いた濵田先生の言葉が、その意味を理解されないまま何度も私の中を周回する。私の脳も身体も全てがフリーズし、そして再び動き出した頃に今度は心臓がけたたましい音を立てて全身の温度を上げた。私はひどく動揺しながらも、恐る恐る後ろを振り返ってみる。一体彼はどんな顔で私のことを見ているのだろうか、いや、全く見ていなかった。濵田先生は、もう私のことなんて気にも留めず、机に向かって淡々と作業を始めていた。私は自分自身の居心地の悪さと、彼の意地の悪さにまた苛立ちを募らせる。

「ほんと嫌い…なのにっ」

濵田先生に聞こえないくらいの音量で呟き、ひんやりと冷たいドアノブを強く握った私は逃げるように化学準備室を出た。

 

校門に着くと、退屈そうに空を見上げるゆめの姿があった。

「ゆめ、遅くなってごめんね」

「ううん。今日は星が綺麗だから、じっくり見れてよかった」

「そっか。ありがとう」

ゆめのさりげない優しさが、私の胸にすうっと広がっていく。私の大好きなゆめは、いつだって自分よりも相手への思いやりを大切にする人だ。そんなゆめが、気づけば至近距離で、心配そうな顔をして私を覗き込んでいた。

「でもこのみ、どうしたの?来たとき、すごく険しい顔してたけど」

「何でもないよ」

私は心臓を大きく揺らしながら、必死にポーカーフェイスを貫く。

「ほんと?濵田先生と何かあったの?」

「ちょっと、考え事してただけ」

「…そっか!何かあったら要報告だぞ〜?」

「はいはい、ありがとね」

私はなんとか取り繕って、ゆめの鋭い質問を終わらせた。ゆめが声の明るさとは裏腹に、少し淋しそうな表情で私を見つめる。私は胸にチクリと針が刺さるような痛みを覚えつつ、これ以上ゆめを心配させないようにと彼女へ笑顔を向けた。

「そういえばゆめ、タピオカ飲みたいとか言ってなかったっけ?」

「そうそう!そうなの!神山先生がめちゃめちゃ美味しいタピオカのお店を見つけたみたいで、昨日私にも教えてくれたんだ〜。ねえ、ちょうど帰り道にあるみたいだし、せっかくだからこのみも一緒に寄っていかない?」

「行きたい!」

ゆめの瞳が、星空のようにまたキラキラと輝き出した。私は胸を撫で下ろしながら、隣で楽しそうに歩くゆめに今度は心からの笑顔を向けた。

 

次の日の休み時間、私は化学準備室にいた。理由は、濵田先生に呼び出されたからだ。どうして呼び出されたのか、それはおそらく、私の今日の態度に原因がある。昨日家に帰ってから、私はまた濵田先生の最後の言葉を思い出した。そして、どうしてわかったんだろう、どうしてわざわざ私に伝えてきたんだろう、どうして濵田先生は私にあんな意地悪を、どうしてあんな人が私の恩人…そんなことを繰り返し考え、気づけば朝を迎えていた。明らかに寝不足の顔で登校した私を見たゆめからはまた心配され、それでも打ち明けられない葛藤がさらに私を苦しめた。だから私はその怒りの捌け口として、今日一日、濵田先生を見かけるたびに睨み続けていたのだった。きっとそれが、濵田先生本人にもバレてしまったのだろう。おそらく私は、これから濵田先生に態度の悪さを叱られるのだ。

「申し訳ない、なんや教頭先生につかまってもうて」

濵田先生が右手を顔の前で縦にしながら、そそくさと部屋に入ってきた。私のためにパイプ椅子を組み立ててくれ、窓際まで進むとそのまま自分の椅子に腰を掛けた。

「ほな、とりあえず座って」

「はい」

私はゆっくりと座り、少し俯き気味に濵田先生の方を見た。私が座ったのを確認して、濵田先生が話を始める。

「瀧川、昨日眠れなかったんか?」

「え?」

予想に反する質問に、私の声が思わず裏返って響いた。濵田先生はそんな私の様子を気にも留めずに言葉を続ける。

「今日のお前の顔、寝てませんってマッキーで書いてるみたいやで」

「そんな…!」

「とにかく寝不足は健康に悪い。今日は部活休んで早う帰ってたっぷり寝とき」

「無理です、きっと今日も眠れません!」

一方的に話を進める濵田先生につい腹が立って、私は少し強めに言い切った。濵田先生は若干目を見開いてから、心なしか口角を上げて静かに答える。

「ほんなら今日眠れるように、今ここで俺に話さなあかん。生徒の寝不足をそのまんまにしておいたら俺が教師失格になってまうさかいな」

確かにこのままでは、私は毎日寝不足で過ごすことになってしまうかもしれない。それにこれから毎日、濵田先生のことを睨み続けるわけにもいかない。私は自分の睡眠と人相を守るため、意を決して口を開いた。

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

*1:『恋の病と野郎組』http://www.bs4.jp/yarougumi/

*2:濵田担さんには許可取得済み。本当にありがとう♡

*3:大好きな濵田担さんのツイートから引用した擬音表現